NARSボイコット問題にみる動物実験禁止の現実
化粧品輸出サポート全般
こんにちは。
サニー行政書士事務所の岡村でございます。
当ブログを閲覧くださり、ありがとうございます。
ブログ記事を書くのはずいぶん久しぶりになります。
本来定期的に、皆様の役に立ちそうな情報をご提供し続けるべきなのに、このように断続的になっている点、まずお詫び致します。申し訳ありません。
なかなか、日々の業務に負われ、腰を据えてブログ執筆する時間がなかなか取れない今日この頃。
ですが、今回の話題は、多少時間を無理に融通してでも、ぜひブログとして残しておきたいものなので、こうして筆を取っています。
今回のテーマは、化粧品の動物実験禁止に関する話題。
EUに端を発したこの話題は、いま世界中を席巻しており、当事務所が月1で発行している無料ニュースレターでも、かなりの頻度で関連ニュースのご紹介をしています。
世界中が「禁止」に向け舵を切っている一方で、化粧品の流通販売のために「動物実験」の実施を課している国もあります。中国はその代表国です。
1.化粧品ブランド「NARS」がインスタグラムに上げた投稿
NARS(ナーズ)はもともと米国の化粧品ブランドでしたが、2000年に資生堂がブランド買収し、いまは資生堂グループを構成しています。
そのNARSが、約1カ月前の6月28日に、以下の画像にある投稿をしています。
あらかじめまずお断りをしておきますが、当ブログは同ブランドの方針や姿勢に同意・賛成したり、逆に批判したりする目的で書いているものではありません。
あくまでも事実をもとに、昨今の化粧品動物実験禁止のトレンド自体に付随している根本的な問題について考察することを目的にしています。その点ご了承ください。
さて、投稿されている英文ですが、その要点だけいくつか和訳したいと思います。
(動物実験の世界的な撤廃は実現されるべきものです。我々は、製品およびその原料成分の安全性は、動物実験以外の方法によって証明できるものであると強く信じていますが、一方で、中国を含む、我々が市場進出をしている国地域の法規制にも従わなければなりません。)
ここでは、「中国で化粧品販売をするためには動物実験をしなければならない」という直接的な表現はしていませんが、文脈から「法規制」が「動物実験の実施」を指していることは明確にわかります。
(私たちはNARSの中国導入を決めました。その理由は、その地域の我々のブランドファンに、私たちのビジョンをもたらすことが重要であると感じるためです。)
(NARSは、法規制で求められない限り、動物実験を行ったり、するように指示したりはしていません)
あくまでも、基本的なスタンスは動物実験禁止の立場であるが、中国市場への製品導入のために動物実験の実施をやむなくしている、といった印象の言い回し表現です。
2. これを受けて、ファンやユーザーは・・・
前述のNARSのインスタグラム投稿を受け、同ブランドのファンやユーザーを中心に、一斉にボイコットの動きが広まっています。
Twitterでは、ハッシュタグ「#BoycottNars」を付けて同ブランドのボイコットを呼びかける動きにまで発展しています。
余談ですが、これがSNSの怖さだと思います。
ネガティブな情報はこうして瞬く間に全世界に広がり、大きなうねりとなって発端となった問題を飲み込み、その渦を広げていきます。
3. このニュースに内在する課題、問題
このニュースのそもそもの舞台となっている、肝心の中国における化粧品規制はどうなっているのでしょうか。
中国では、化粧品輸入および市場流通&販売に際し、さまざまな手続きが必要にはなるのですが、その主幹プロセスの1つが、「輸入化粧品見本検査」という手続きです。
この手続きでは、CFDA(中国食品薬品監督管理局)指定の33の検査機関による事前審査を行います。
そしてその事前審査に合格することで発行される「検査報告書」の添付がないと、CFDAによる許可・登録手続きができないことになっています(つまり、行政許可申請の前提条件となっている)。
そしてこの検査項目の中に「急性皮膚刺激性試験」や「急性眼刺激性試験」等があり、ここで動物実験が出てくることになります。
つまり端的には、中国への輸出に際しては動物実験は避けては通れない、ということです。
EUを初めとする世界の多くの国地域では、すでに動物実験禁止がすでに運用されているか、運用される予定である事実。
一方で、世界第二位のGDPを有する中国では、化粧品を売るために動物実験が必須となっている事実。
この相反する事実を、2つの視点から見る必要があります。
1つは、行政手続きの視点。
この視点においては、問題解決のためには、動物実験禁止と動物実験実施必要のそれぞれの国地域毎に、別々の運用をすれば良いということになります。
これはこれで大変です。同時展開を考えるならば、EU等向け適用と中国向け適用で、用意しなければならない書類やデータが大きく異なってくるためです。
ただ、時間とお金さえ掛ければ、問題解決自体は可能、ということです。
一方でもう1つの視点である、ブランドイメージの視点においては、事は複雑です。
法規制を守るためとはいえ、NARSは中国向けに動物実験をしているために、前述したようなボイコット問題は現実として起きてしまっています。
世界的に展開しようとするブランドの場合、ある特定の地域だけで行っていることであったとしても、それはその「ブランド自体のイメージ」として世界中を駆け巡り、場合によってはネガティブな効果を生むことになります。
非常に複雑で、ある種深刻な問題ですね。
世界展開を推し進めるならば、このようなボイコットにも歩みを止めることなく、その先にマーケティング的な成功があると信じて、前に進むしかないのでしょう。
ファンやユーザー、SNS上の声を重視するならば、例えば中国市場を諦める、という選択肢もあるでしょう。ですがそれは即ち超巨大な化粧品マーケットに背を向けることになります。
この辺に大きなジレンマが発生しても何の疑問もありません。
当ブログのまとめ
問題提起だけをして、これといった解決策を示すことが出来ない内容になってしまいましたが、解決策自体考えるのが非常に難しい問題です。
中国も化粧品動物実験を全面禁止する、というのが根本的な解決策の1つでしょうが、1年や2年後に現実化するとは思えませんし・・・(動き自体はあるようですが)。
この問題、引き続き注視していきたいと思います。
また、このブログ記事を書きながら思い出したのですが、実は当事務所にご相談を頂く化粧品輸出案件のなかでも、結構な頻度で、
「中国向けの安全性評価試験データと、EU等その他地域向けのデータを共通化できないか?同じデータを流用できないのか?」
というご相談を受けます。
詳しく深く調査したことがないので確実なことは言えませんが、前述のブログ本文の内容からも、共通化というのは現実問題として難しいと思われます。
一部、何らかのデータを流用できる可能性はあると思いますが、それでもそのまま何もせずに流用、ということは無いかと。
こうなってくると、果たしてどの国地域を最初のターゲットとするべきか?という、優先順位決めも非常に大切になってきますね。
以上、長文にもかかわらずお読みくださりありがとうございました。