総括製造販売責任者
化粧品製造販売業を行うにあたって設置必須の役職です。
一言で説明するならば、化粧品を製造販売する業行為における実務責任者です。
もう少し詳しくまとめるならば、
とでも表現できるポストです。
薬機法(医薬品医療機器等法)では、第十七条にその設置に関する規定が書かれています。
(化粧品に関係する部分のみを限定的に掲載します)
第十七条 化粧品の製造販売業者は、厚生労働省令で定めるところにより、化粧品の品質管理及び製造販売後安全管理を行わせるために、化粧品の製造販売業者にあつては厚生労働省令で定める基準に該当する者を、それぞれ置かなければならない。(中略)
2 前項の規定により品質管理及び製造販売後安全管理を行う者(以下「医薬品等総括製造販売責任者」という。)が遵守すべき事項については、厚生労働省令で定める。
そして、上記の第2号で語られている「遵守すべき事項」については、同法施行規則内に以下の様に定められています。
第八十七条 法第十七条第二項の医薬品等総括製造販売責任者が遵守すべき事項は、次のとおりとする。
一 品質管理及び製造販売後安全管理に係る業務に関する法令及び実務に精通し、公正かつ適正に当該業務を行うこと。
二 当該業務を公正かつ適正に行うために必要があると認めるときは、製造販売業者に対し文書により必要な意見を述べ、その写しを五年間保存すること。
三 化粧品の品質管理に関する業務の責任者(以下「品質保証責任者」という。)及び製造販売後安全管理に関する業務の責任者(以下「安全管理責任者」という。)との相互の密接な連携を図ること。
難しそうな内容ですが、要点は、1号と3号にも書かれているように、大切なのは化粧品の「品質管理」と「安全管理」の管理監督を行う立場にある、という点ですね。
このように高度な責任が課せられる立場なので、総括製造販売責任者には一定の資格要件が定められています。上記のような管理監督を行う以上、化粧品に係わる高い専門知識、とりわけ「化学」や「薬学」に関する精通が求められています。
同法施行規則では、次のいずれかの基準に該当する者であること、とされています。
第八十五条
2 化粧品の品質管理及び製造販売後安全管理を行う者に係る法第十七条第一項の厚生労働省令で定める基準は、次の各号のいずれかに該当する者であることとする。
一 薬剤師
二 旧制中学若しくは高校又はこれと同等以上の学校で、薬学又は化学に関する専門の課程を修了した者
三 旧制中学若しくは高校又はこれと同等以上の学校で、薬学又は化学に関する科目を修得した後、化粧品の品質管理又は製造販売後安全管理に関する業務に三年以上従事した者
四 厚生労働大臣が前三号に掲げる者と同等以上の知識経験を有すると認めた者
1つ1つ確認していきましょう。
資格要件1: 薬剤師
化学薬学のプロフェッショナルとして、その資格を持っているということだけで総括として認められる要件です(経験年数等は問われません)。
資格要件2: 専門課程修了要件付きの学歴
理解するにあたって、「旧制中学若しくは」の部分は無視して差し支えありません(そもそもご高齢過ぎて現役としては非現実的)。
そうすると、高校や大学で、薬学や化学に関する「専門課程」を修了した者、ということになります。
有資格者に成り得る代表的なケースとして、
・理学部 化学科・農学科等の卒業者
・工学部 工業化学科・理化学科等の卒業者
・工業高校 工業化学科等の卒業者
またその他の学部であっても、専門課程としての化学科目を履修しているケースは沢山あります。(例えば農学部、畜産学部、生物学部、水産学部など)
そういった学部出身で、かつ化学系の専門科目(物理化学、分析化学、有機化学、無機化学、生物化学、エネルギー化学、薬理学、病院薬学、医療薬学など)を12単位以上取得していれば、総括製造販売責任者の有資格者となれます。
資格要件3: 学歴+実務経験
上記の資格要件2と似ていますが、一言でいえば学歴要件は緩くなり、その代わりに実務要件を課している、という要件です。
「学歴」部分ですが、資格要件2にある「薬学又は化学に関する専門の課程を修了」ではなく、「薬学又は化学に関する科目を修得」となっています。要件が緩くなっているのがわかります。
「専門」の二文字が消えていることから解るように、こちらの「化学」は専門科目である必要はありません。
つまり大学の教養課程としての「化学」でも良いですし、普通科の高校で履修する「化学I」とか「化学II」でもOKです。
次に「実務経験」ですが、「化粧品の品質管理又は製造販売後安全管理に関する業務に三年以上従事した者」とあり、なかなかやっかいです。
これはつまり、化粧品製造販売業者における、品質管理業務や製造販売後安全管理業務を3年以上経験する、という意味です。ですので、例えば、単に化粧品を売り場で販売した経験、ではNGです。
この資格要件3は、新規に化粧品製造販売業を取得する際の総括製造販売責任者の要件としてはあまり現実的では無く、むしろ5年後業許可更新を見据えて、社内で次期総括を育てるという戦略にマッチした要件といえます。
つまり、初回は要件1(薬剤師)か要件2(学歴)で要件を満たす者を総括として置き、その総括の下で、資格要件3の学歴要件を満たす者に品質管理業務等を経験させる。そうすることで、3年後にはその人も総括の要件を満たすことになります。
なお、この実務経験を証明する書類として、「従事年数証明書」というものの提示が要求されています。
資格要件4: 非現実的
この要件4は、実際非現実的なのでこれを狙う人は殆ど居ないと思います。
ここで言うところの「前三号に掲げる者と同等以上の知識経験を有すると認めた者」とは、
医薬品又は高度管理医療機器、又は管理医療機器の総括製造販売責任者を経験した者 等
とされており、そもそも総括を経験したことがある人、という時点で、新規に業許可取得を検討する業者にとっては非現実的な要件であり、対象外といえると思われます。
なお、化粧品製造販売業においては、総括製造販売責任者は、他の設置必要ポストである品質保証責任者、および安全管理責任者との兼務が可能、とされています。
医薬部外品製造販売業の場合について
医薬部外品の場合、上述の化粧品の場合と少々異なる点があるので、注意が必要です。
まずは施行規則を確認してみます。
施行規則では、次のいずれかの基準に該当する者であること、とされています。
第八十五条
1 医薬部外品の品質管理及び製造販売後安全管理を行う者に係る法第十七条第一項の厚生労働省令で定める基準は、次の各号のいずれかに該当する者であることとする。
一 薬剤師
二 旧大学令(大正七年勅令第三百八十八号)に基づく大学、旧専門学校令(明治三十六年勅令第六十一号)に基づく専門学校又は学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)に基づく大学若しくは高等専門学校(以下「大学等」という。)で、薬学又は化学に関する専門の課程を修了した者
三 旧中等学校令(昭和十八年勅令第三十六号)に基づく中等学校(以下「旧制中学」という。)若しくは学校教育法に基づく高等学校(以下「高校」という。)又はこれと同等以上の学校で、薬学又は化学に関する専門の課程を修了した後、医薬品又は医薬部外品の品質管理又は製造販売後安全管理に関する業務に三年以上従事した者
四 厚生労働大臣が前三号に掲げる者と同等以上の知識経験を有すると認めた者
注目していただきたいのは、上記のハイライトした箇所です。
まず第2号(学歴要件)ですが、化粧品の場合は高校以上の教育機関でよかったのが、医薬部外品では大学以上、と格が1つあがっています。
したがって、化粧品の場合は例えば工業高校の化学科ご出身の方は総括製造販売責任者になれる可能性があったのですが、これは部外品ではNGということになります。
つぎに第3号(実務要件)です。
前半の、学校の種類のところは化粧品と同じく、こちらは(2号と違って)高校以上の教育機関でもOKとなっているのですが、問題はその次の部分です。化粧品では「薬学又は化学に関する科目を修得」となっていた部分が、こちらの医薬部外品では「薬学又は化学に関する専門の課程を修了」となっている点に注意です。
つまり3号要件を使う場合、部外品の場合はそういった専門課程を修了(=卒業)している必要がある、ということで、こちらも化粧品の場合よりも1段条件のハードルが上がっています。
【責任者の常勤性について】
責任者(製造販売業の場合は「総括製造販売責任者」、製造業の場合は「責任技術者」には、「常勤性」が求められています。
「常勤」とは、他の正社員などのフルタイムで働いている方に準じた勤務時間であること、とされています。
一方で、例えば「必ず正社員でなければならない」など、肩書については特に規定されていません。
したがって、正社員であっても、契約社員、パートタイム、他社からの出向等であっても、例えば週5日、1日7~8時間程度、総括製造販売責任者や責任技術者の業務に関わっておられるのであれば、法律違反ではありません。
なぜ「常勤性」が求められるのか、の根拠ですが、平成11年11月30日に当時の厚生省から出ている、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部改正に伴う留意事項について」という通知です。
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb3901&dataType=1&pageNo=1
この2(5)に「薬事法第17条に規定する医薬部外品、化粧品又は医療用具の製造の責任技術者の業務」とかかれており、この業務が「派遣にそぐわない(=つまり常勤形態でやりなさい、ということです)」と定義されているのが根拠です。
この通知の後、平成17年(2005年)4月に当時の薬事法の改正があり、現在の許可形態である「製造販売業許可」と「製造業許可」という形になったのですが、製造販売業許可の総括製造販売責任者もその名残(というかルールの準用)で、責任技術者と同じ要件が課せられている、ということになっています。